愛知県立芸術大学の名誉教授、櫃田伸也が描く、記憶と視覚のレイヤー
豊田市美術館で開催される「櫃田伸也 ― 通り過ぎた風景」展は、現代日本の絵画シーンに計り知れない影響を与えてきた画家・櫃田伸也(1941年〜)の初期から最新作までを網羅する待望の大規模回顧展です。櫃田は、愛知県立芸術大学や東京藝術大学で教鞭を執り、多くの後進(奈良美智や杉戸洋など)を育てた「師」としての側面も有名ですが、本展では彼自身の作家としての純粋な闘争の軌跡にスポットを当てます。
「無風景」から「箱」へ:独自の絵画表現の変遷
櫃田伸也の作品は、一見すると何気ない空地、電柱、看板といった「どこにでもある風景」の断片が、複雑な層(レイヤー)として重ね合わされています。1970年代の代表的なシリーズ《無風景》では、中心のないバラバラな風景が、画面上で一つの秩序を持って構成されており、これは私たちの視覚がいかに不完全で、記憶がいかに曖昧であるかを示唆しています。2000年代以降の《箱》シリーズでは、空間の奥行きや境界線がさらに複雑化し、絵画という二次元の平面の中に、無限の時間が封じ込められたかのような不思議な感覚を観る者に与えます。
師弟関係を超えて:櫃田伸也の教えと現代美術
本展のもう一つの見どころは、櫃田が教育者としてだけでなく、一人の画家としてどのように世界を見つめてきたか、その「まなざし」の純粋さに触れられる点です。彼が描く風景は、ドラマチックなものではありません。しかし、その画面からは、光の粒子や空気の震え、そして何よりも「描き続けること」への誠実な意志が伝わってきます。師事した作家たちが、彼の作品から何を学び、それぞれの表現へと繋げていったのか。現代美術の系譜を理解する上でも、本展は欠かせないピースとなります。未公開のスケッチや資料も多数展示され、作家の思考がどのように構築されていくのか、そのプロセスを垣間見ることができるのも大きな魅力です。
谷口吉生設計の豊田市美術館という極上の空間
豊田市美術館は、建築家・谷口吉生の手による、光と水、直線美が調和した日本屈指の美術館建築です。櫃田の静謐でありながら緊張感のある絵画作品は、この建築の静寂と見事に呼応するはずです。展示室を出た後に広がる水辺の風景そのものが、櫃田の作品の続きのように感じられることでしょう。
開催概要
• 会場: 豊田市美術館(愛知県豊田市)
• 会期: 2026年4月4日 〜 6月21日
• 休館日: 月曜日(祝日の場合は開館)
• 観覧料: 一般1,300円、高校・大学生900円、中学生以下無料
• 公式サイト: https://www.museum.toyota.aichi.jp/exhibition/hitsuda2026

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